猫パラストーリー2

【第2話 ミケと玉菊】
少年マロンがママに保護された日から、阿波猫さんのストーリーが始まる。猫年ニャンニャン月の朝はひどく冷えた(ニャゴは10、ニャンは1、人間世界で言うと2月)。阿波の町で一番早起きの猫はやはりミケ姐さんだろう。何しろ、姐さんの住まいは眉山。小高い丘のようだけど立派な山。朝は冷えるし、太陽の光にも早くから照らされて、流石に夜型の姐さんでもゆっくり寝てはいられない。その上、ここ眉山では食料にも事欠くし、スケジュールにも追われる毎日なのだ。朝から会食、昼は知り合いを訪ね歩いて街を巡回した後は、夕方には秋田町で接待されるのが日課だ。あちこちで引っ張りだこで、忙しいことと言ったら…と、ここまでは本猫談。ミケ姐さんは孤独の猫だ。推定9歳という話だが、はっきりとはわからない。いつの間にかこの街に流れてきた。熱烈な恋愛あり(三角関係やにゃく脱愛もあるという話だ)武勇伝あり、という話だが、これも噂の域を出ない。ミケ姐さんを語らせたら一番の猫は何といっても、花街の重鎮、玉菊姐さんなのだが、玉菊姐さんはニャンとして(頑として)お互いのことを話そうとしない。何があったのかは推して知るべしなのだ。姐さん同士の諍いなんて、オスが絡んだ艶っぽい話に決まっているのだから。

玉菊姐さんが、阿波の富田町の置屋「たまや」に来てもう10年になる。生後9か月で村から女中奉公に出てきたのは、伯母さん猫が先に貰われてきていたからだ。お姐さん猫の艶やかな姿を見て暮らしている内に、芸事に目覚め修業に邁進し、芸者になって早9年。とうに花も過ぎたが、昔からのお馴染みさんに呼ばれることもあるし、若い芸者猫豆千代を支え、クロ吉、トラ美、うさ乃らの半玉指導にも余念がない。「たまや」ではお母さんの役割もこなす年回りだが、今でもハッとするほど艶っぽく、この辺の熟女猫の中ではピカイチである。そんな姐さんだが、近頃は豆千代さんの行く末が心配でたまらない。何しろ、故郷の村から、自分に憧れて街に出てきた豆千代さんのことが可愛くて仕方がないのである。自分の娘のように思うことだってある。自分はこのままこの「たまや」で、この花街で、芸を究めながら一生を終えるつもりでいるけれど、豆千代さんには他の幸福も味わってほしい。芸の道ひとすじというならば、精一杯応援はするが、もし好きな猫でもいるのなら…と密かに悩む玉菊姐さんであった。心配事は、豆千代さんのことだけではない。お騒がせの三猫組「たまや」の半玉トリオ、クロ吉、トラ美、うさ乃のことも気にかけてやらなければならないのだ。この三猫といったら、そろそろ1歳になろうかというのに、未だ幼猫のようである。オーラや色香を生まれ持つ豆千代と比べるのも酷な話だが、三猫にはまだまだ修業が必要であると考える玉菊姐さんであった。若い猫たちにはこの富田町は狭い世界かもしれない。豆千代が最近お座敷で出逢ったというあの若者のことや、外のお嬢さん猫たちの世界のことを考えながら、玉菊姐さんはいつしか自分の昔を思い起こしていた。
ミケはどうしているだろうか。

(つづく)

猫パラストーリー1

【序 章】
 阿波は徳島。猫年、猫月。阿波猫さんと呼ばれるここの猫たちは、人間さまのいつもの世界と、パラレル猫ワールドを行ったり来たり。阿波に生きる猫のしきたり、ねこ関係に、ねこ模様。猫の世界はいつも気まぐれだけど、阿波猫さんは今日も生きている。捨て猫やうち猫、あばれ猫に訳あり猫。ねこねこしい、失礼、憎々しい猫もいれば、猫情に厚い猫もいる。男と女。お芋、失礼、老いも若きも。老若にゃんにゃんの猫たちの、猫パラ(猫パラダイス&猫パラレルワールド)ストーリーの始まり、始まり。

【第1話 マロン】
 ボクの名前はマロン。年はね、6か月だよ。ボクを拾ってくれたママがお医者さんに聞いてくれたから合ってるよ、きっと。寒い日だったんだ。ボクあまり覚えてないんだ。走って走って、いっぱい色んな人が歩いてたから、隠れてたの。おなかが空いて、寒くて、怖くて。眠くなっても寒くて眠れなかったんだ。どのくらいたったのかな。ふわっと優しいいい匂いがして、ボク浮き上がったの。「こんなところにいたの?うちに来る?」って、誰かが抱っこしてくれたんだ。それがママ。ボクのママ。ママはボクをおうちに連れて帰ってくれて、真っ先に暖かい毛布で包んでくれた。それからごはんを作ってくれた。えっとね、ママが「これ、サーモンだけど食べる?」って言ってたよ。温くておいしかったよ。それからね、「お風呂に入りましょうね」ってママが言って、ボクをシャワシャワ洗ってくれた。初めてのお風呂はくすぐったくて、怖かったけど、ママが優しく洗ってくれるから、ちょっぴりうれしくなっちゃった。「気持ちいいでしょう」ってママに言われたけど、やっぱり怖くて泣いちゃった。ずっと泣いてて疲れちゃって、お風呂から出たら急に眠くなったんだ。ふかふかのお布団、暖かいお部屋。ボク、ここにいていいのって思ってたら、ママが言ったんだ。
「今日からここがあなたのおうちよ。名前はマロン。気に入った?」って。ボク、ここにいていいんだ。
「ワタシはあなたのママ。ずっと一緒にいましょうね。」ボクのママ…ボクにママが出来たんだ。今日からこの人が
ボクのママなんだ。急にホッとして、ほわっとして、ボク眠くなっちゃったんだ。そのままベッドで眠ったみたい。どれくらい寝たのかなあ。夢を見たよ。夢の中でボク走ってた。笑ってた。ママも笑ってたよ。ずっとずっと。

(つづく)